営業マネージャーになるべきか、プレイヤーを続けるべきか——判断基準を整理する
プレイングマネージャーが87.3%(リクルートワークス研究所2019)という現実の中、MGへの昇格は本当にキャリアアップなのか。年収差・向き不向き・AI時代の役割変化から判断基準を整理する。
編集部
昔の俺は「マネージャーになることがゴール」だと思っていた。
41歳になった今、それは間違いだったと思っている。正確に言うと、「MGになること自体が目的」になっていたのが間違いだった。MGになることは手段であって、目的にしてはいけない。
「MGになるべきか、プレイヤーを続けるべきか」は、どちらが優れているかの話ではない。 あなたが何を実現したいか、あなたにどんな能力があるかを正直に評価した結果の話だ。
プレイングMG87.3%という現実——「MG=管理専任」ではない
まず知っておいてほしい数字がある。
リクルートワークス研究所の2019年調査によると、管理職の87.3%がプレイングマネージャー、すなわち自身も個人目標を持ちながら部下のマネジメントも担う役割だ。
これが何を意味するか。「マネージャーになれば管理業務に専念できる」という期待は、大半の企業では成り立たないということだ。
現実には、自分の数字も持ちながら、部下の商談にも同席し、採用も評価もこなし、社内調整もする——これがプレイングMGの日常だ。業務量はプレイヤー時代の1.3〜1.5倍になることも珍しくない。
「MG昇格=ステップアップ」という単純な図式で判断すると、なってから後悔することになる。
MGとプレイヤーの年収差——思ったより単純ではない
「MGになれば年収が上がる」も、必ずしも正しくない。
固定給が中心の大企業・日系企業では、MG昇格で月給が2〜5万円上がるケースが多い。年収換算では30〜70万円程度のアップだ。
一方、インセンティブ型の外資系・SaaS系企業では、トッププレイヤーがMGを大きく上回ることが珍しくない。月間インセンティブが100万円を超えるようなプレイヤーが、MG転換で固定給600万円になり「下がった」と感じるケースも実際にある。
転職市場で見ると、年収への影響は以下のように整理できる。
MGが有利な転職先
- 大手日系企業の管理職ポジション
- 営業部門全体のマネジメント経験が評価されるコンサルティングファーム転職
- 営業企画・RevOpsなどプランニング系ポジション
プレイヤーが有利な転職先
- 外資系・SaaS系の個人成績重視のAE(Account Executive)ポジション
- インセンティブ重視の成果報酬型ポジション
- スタートアップの「即戦力営業」採用
自分がどちらの市場に転職可能性があるかも、判断の材料にしてほしい。
MGに向いている人・向いていない人
20年近く営業の現場にいて、MGに向いているかどうかはかなり早い段階で見えてくる。
MGに向いている人の特徴
他者の成功を心から喜べる人
これが最も重要な基準だ。部下が自分より高い数字を出したとき、素直に「よくやった」と思えるか。嫉妬やプレッシャーではなく、純粋な喜びを感じられるか。これができない人は、MGになると消耗する。
「任せること」にストレスを感じない人
プレイヤーから脱却できないMGは、結局全部自分でやってしまう。「自分がやった方が早い」は真実かもしれないが、それでは部下が育たず、自分も疲弊する。任せて、待って、フォローするサイクルを楽しめるかどうか。
数字の責任を「一人で」ではなく「チームで」感じられる人
自分の数字の責任は誰でも持てる。MGはチームの数字、さらには自分がいなかったら取れなかった数字に対しても責任を持つ必要がある。このストレスを「やりがい」と感じられるかどうか。
MGに向いていない人の特徴
自分でやることに強みと喜びを感じる人
「俺が一番現場で動いている」という感覚に価値を感じるなら、プレイヤーを続ける方が幸せになれる可能性が高い。
短期の成果に強いモチベーションを感じる人
MG成果は、育てたメンバーが数年後に結果を出すという長いサイクルが多い。即効性のある達成感が必要な人には向かない。
人間関係のコンフリクトを極力避けたい人
MGは評価・育成・場合によっては退場勧告を担う。感情的な摩擦は不可避だ。これに耐性がない人は、精神的に消耗する。
AI時代のMGの役割変化——管理からコーチングへ
「マネージャーの仕事」が変わりつつある。
かつてのMGは、数字の管理・進捗確認・報告書の取りまとめが仕事の大部分を占めていた。これらは今、CRM・AI分析ツールが代替しつつある。Salesforceが自動でダッシュボードを更新し、AIが商談スコアリングをして、どこに問題があるかを提示してくれる。
残るMGの仕事は何か。「人を動かすこと」だ。
- メンバーのやる気が落ちているとき、原因を見つけて対処する
- 行き詰まっている商談を一緒に考えて打ち手を見つける
- キャリアの悩みを聞き、成長の機会を作る
- チームの文化・心理的安全性を維持する
これらはAIが代替できない、人間同士の関係性に基づく仕事だ。
つまり、AI時代のMGに求められるのは「管理能力」より「コーチング能力」だ。この方向性に魅力を感じるかどうかが、MGを目指すべきかの重要な判断軸になる。
決断の3つの問い
「MGになるべきか、プレイヤーを続けるべきか」を判断するとき、俺は3つの問いを自分に投げかけることをすすめている。
問い1: 「誰かの成長に携わることは、自分の成長と同じくらい嬉しいか?」
Yesなら、MGの素養がある。Noなら、プレイヤーとしてのキャリアを深掘りした方がいい。どちらでもないなら、MGを一度経験してみて判断する価値はある。
問い2: 「今の自分の不満は、MGになることで解決するか?」
「もっと裁量が欲しい」「もっと高い給料が欲しい」「今の業務に飽きた」——これらはMGになることでは必ずしも解決しない。裁量は、大手より小さい会社に転職する方が早く得られるかもしれない。給料は、インセンティブ型の会社でプレイヤーとして稼ぐ方が高くなるかもしれない。
問い3: 「5年後の自分は、何を経験していたいか?」
「100名を超える組織を動かした経験」を持っていたいなら、MGルートが正解だ。「外資系の最大案件を担当した実績」を持っていたいなら、エンタープライズプレイヤーとしての深化が正解だ。5年後のイメージから逆算して、今の選択を判断してほしい。
まとめ——どちらも「正解」、ただし理由が必要
MGとプレイヤー、どちらを選んでも構わない。ただし「なんとなくMGになった」は最悪の選択だ。
組織の論理で昇格を求められたとき、なんとなく受け入れた人間が半年後に消耗しているのを、俺は何度も見てきた。
自分が何を大切にしていて、何が得意で、どんな5年後を作りたいか——この3つを正直に考えた上で選択した答えは、MGでもプレイヤーでも必ず意味がある。
選んだ道をどう生きるかの方が、どちらを選ぶかより大切だ。
参考文献
- リクルートワークス研究所,「プレイングマネジャーの実態調査」, 2019年
- マイナビ,「転職動向調査2025年版」, 2025年
- JACリクルートメント,「2024年 管理職・専門職の転職市場動向」
- Gartner, “The Future of Frontline Sales Manager,” 2023年
- 営業マネージャー・プレイヤー経験者ヒアリング(社名非開示・2025〜2026年実施)
よくある質問
- Q営業マネージャーと営業プレイヤーでは年収はどちらが高いですか?
- 一概には言えません。固定給比率が高い企業では通常MGの方が高く、インセンティブ比率が高い企業ではトッププレイヤーがMGを大きく上回ることもあります。転職市場で高く評価されるのは「実績ある営業プレイヤー」か「組織を育てたMG実績」のどちらかで、中途半端なプレイングMGは評価が難しい傾向があります。
- Q営業マネージャーに向いている人の特徴は何ですか?
- 他者の成功を自分の喜びとして感じられる人。自分が動くより人に動いてもらうことでストレスを感じない人。チームの数字に責任を持ちながら、失敗しているメンバーを見捨てずに伴走できる人。これらが揃っている人はMGに向いています。
- Q一度マネージャーになったらプレイヤーに戻れますか?
- 戻れます。ただし「MG経験あり・プレイヤー志望」という求人は少なく、転職市場では少し不利になる場面もあります。プレイヤーに戻る場合は「なぜMGからプレイヤーに戻るのか」を明確に説明できることが重要です。
- Q30代でまだプレイヤーを続けているのはまずいですか?
- 全くまずくありません。むしろ35歳・40歳になっても高い成績を維持できるプレイヤーは転職市場で非常に評価されます。MG転換を急ぐより、プレイヤーとしての希少性を高める方が、長期的に高い市場価値になる場合もあります。
ジン
41歳フィールドセールス VP
20年以上の現場経験。エンタープライズ大型商談の修羅場をくぐってきたから言える、長期視点のキャリア論。