営業職の二極化——年収が上がる人と上がらない人の分岐点

AI×即戦力シフトで年収格差が拡大する構造を解説。SaaS年収1,040万円から停滞する営業まで、ジンが分岐点を語る。

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編集部


長くやってきたから、格差が広がっていくのが見える。

20年前は「営業は根性と体力」と言われた。今は、それだけでは戦えない時代になった。同じ「営業」という仕事をしていても、年収が倍近く違う人間が同じ世代に存在する。その差は、能力の差というより「どこに立っているか」の差だ。

今日はその構造を、できるだけ正直に話す。

二極化の構造——何が年収を分けているのか

まず数字を見てほしい。

SaaS企業の年収トップはプレイドの1,040万円(xenoBrain 2024年)。医薬品MRの平均は803万円。一方、従来型の法人営業で成果が出せていない30代後半の年収は400〜500万円台に留まるケースがある。

同じ「営業職」で、最大2倍近い差が生まれている。

この格差を生んでいる構造的な要因は3つだ。

1. ビジネスモデルの違い(成果連動の設計)

SaaS企業ではOTE(オン・ターゲット・アーニング)と呼ばれる成果報酬型の給与設計が普及している。目標達成率100%で「固定給+変動給」のフルOTEを受け取り、120%達成なら1.5〜2倍の収入になる。

一方、従来型の営業では固定給中心・インセンティブが小さい構造が多い。頑張っても頑張らなくても年収の差がつきにくい。

2. 扱う商材の複雑さ

大型・複雑な商材(エンタープライズSaaS・金融商品・医療機器など)を担当できる営業は希少だ。「コンプレックスセールス」と呼ばれるこのスキルは、習得に時間がかかる分、市場価値が高い。

反対に、シンプルな商材・単価が低い商材の営業は、AIや安価な人材に代替されるリスクが相対的に高い。

3. 成果の「言語化・再現化」ができるかどうか

感覚でやっていた人は弱い。転職市場でも、プロジェクト内でも、「自分の成果がなぜ出たのか」を言語化・再現化できる人間が評価される。これがAI時代の本質的な差になっている。

年収が上がっていく営業の特徴

共通点は明確だ。俺が見てきた「上がっていく人」には3つのパターンがある。

パターン1: 成果を常に言語化している

売上を上げたとき、「なぜ取れたのか」を必ず振り返っている。顧客の意思決定を促した一言・タイミングの読み方・競合との差別化ポイント——これを言葉にして蓄積している人は、次の案件でも再現できる。

転職市場でもこの差は出る。「年間120%達成」と言える人はたくさんいるが、「なぜ達成できたのか・どう再現するのか」を語れる人は少ない。

パターン2: 上位職と同じ視点で仕事をしている

「言われたことをやる」ではなく、「なぜこの指示なのか」「自分ならどう設計するか」を考えながら動いている。これが習慣になっている人は、自然に管理職・企画職への評価が高まる。

パターン3: AIツールを早期に使い始めている

AIツールを使っている営業と使っていない営業の生産性差は、すでに2026年時点で開き始めている。早く習慣化した人は「余った時間を戦略思考に使える」という複利がかかる。

セールステック市場の拡大(4,159億円→2030年5,170億円・xenoBrain 2025年予測)は、AIを使う営業の需要が増すことを示している。

年収が停滞する営業のパターン

同じく、俺が見てきた「止まってしまう人」の共通点も書く。

パターン1: 「経験年数」で市場価値を測っている

「10年やってきた」という事実は経験だが、市場価値とは別物だ。「10年で何を学び、何を再現できるようになったか」が問われる。年数が価値に変換されていない人は、転職市場で苦労する。

パターン2: 特定の会社・業界に特化しすぎている

一つの会社・一つの業界しか知らない営業は、外に出たとき「その経験、汎用性がないですよね」と見なされるリスクがある。意識的に「他の業界でも通じるか」を問い続ける姿勢が必要だ。

パターン3: プレイングマネージャーとして疲弊している

リクルートワークス研究所(2019年)の調査では、プレイングマネージャーが87.3%に達し、プレイング業務が3割を超えるとチームの業績が低下するという結果が出ている。

プレイングMGは「自分の数字を追いながら、チームも見る」という二重負荷だ。この状態が続くと、個人の市場価値向上に時間を割けなくなる。組織設計の問題でもあるが、「自分の市場価値は上がっているか」を定期的に確認する必要がある。

若手への影響——入口が狭まっている現実

年収二極化は、中堅・シニア層だけの問題ではない。若手の入口が変わっている。

数年前まで「未経験歓迎・研修充実」で採用していた企業が、今は「SFAの操作経験あり」「SaaS営業経験2年以上」を条件に出し始めている。

なぜか。AIが反復業務を代替し始めたことで、「育てながら戦力化する」コストを企業が嫌がるようになった。即戦力採用へのシフトは、若手にとっては「最初の3年間」の使い方が将来の年収を決める、という意味になる。

若手が今すぐ意識すべきこと:

  • 今いる会社で「コンプレックスセールス(大型・複雑案件)」に触れられる環境を選ぶ
  • AIツールを誰よりも早く使いこなして、「AI活用できる営業」というポジションを取る
  • 日々の成果を言語化してメモしておく(3ヶ月後に振り返れる状態にする)

最初の3年間は「年収より経験の質」を優先することが、長期的には最も年収を上げる戦略だ。

今いる場所から動くための基準

「転職すべきか、今の会社で頑張るべきか」——この問いに答えるための基準を3つ提示する。

基準1: 今の年収は市場水準と比べてどうか

転職を考える前に、転職エージェントへの登録だけでもやってみることを勧める。「あなたのスペックなら○○万円のオファーが来る可能性がある」という情報を持つだけで、判断の質が上がる。

基準2: 今の会社での成長は続いているか

「成長実感がある」と「安定して働けている」は別物だ。挑戦の機会が減り、同じことの繰り返しになっているなら、市場価値は停滞している可能性がある。

基準3: 自分の成果を「言語化して語れるか」

今すぐ、「自分はなぜこの会社の営業として成果が出せているのか」を3分で説明できるか試してほしい。語れないなら、まず言語化から始める。語れるなら、その言語化を面接で使うだけでいい。

格差は構造的に広がっている。でも構造を知れば、どこに立てばいいかが見える。

それが今日伝えたかったことだ。

参考文献

  • xenoBrain「SaaS企業年収調査」2024年
  • xenoBrain「セールステック市場レポート」2025年
  • リクルートワークス研究所「マネジャーの仕事実態調査」2019年(プレイングMG87.3%・プレイング業務3割超でチーム業績低下)
  • JACリクルートメント「職種別年収データ」(MR 803万円)

よくある質問

Q営業職の年収二極化はいつ頃から始まりましたか?
SaaSビジネスの拡大とともに、2018〜2020年頃から顕著になりました。SaaS企業では成果報酬型・OTE(オン・ターゲット・アーニング)の仕組みが普及し、同じ『営業』でも業種・モデル・個人成果によって年収差が広がりました。AI普及後の2023年以降、その傾向がさらに加速しています。
Q年収が上がりやすい業種・職種はありますか?
SaaS・IT・金融・医薬品(MR)は年収水準が高い傾向があります。MRの平均は803万円(業界団体データ)、SaaSトップ企業では1,000万円超も珍しくありません。業種だけでなく『コンプレックスセールス(複雑な商材の大型受注)』ができる人材は業種を問わず高く評価されます。
QAIに営業が代替されると言われていますが、本当ですか?
部分的には起きています。反復的なテレアポ・定型メール・簡単な問い合わせ対応はAIが担う方向に進んでいます。一方、複雑な商談・利害関係者の調整・感情的な意思決定への対応は、当面人間の強みが残ります。『どこに自分を置くか』の選択が重要です。
Q30代後半で年収が上がらない場合はどうすればいいですか?
まず『自分の成果を言語化できるか』を確認してください。売上を出した経験があっても、なぜ出せたのか・どう再現するかを語れないと市場評価が上がりません。次に、現職での成果を言語化した上で転職市場に出てみることを勧めます。マイナビ調査では転職後平均+22万円という結果が出ています。
Q若手営業が今後10年で市場価値を高めるにはどうすればいいですか?
3つの投資をすることです。①AIツールを使いこなす習慣(早く始めるほど差がつく)、②コンプレックスセールスの経験(大型・複雑案件を担当できるポジションを選ぶ)、③成果の言語化(何をやったか・なぜ成果が出たかを常にメモしておく)。この3つが揃うと、AIが代替しにくい人材になります。

ジン

41歳

フィールドセールス VP

20年以上の現場経験。エンタープライズ大型商談の修羅場をくぐってきたから言える、長期視点のキャリア論。