なぜ営業は年収が上がらないのか——転職理由1位『給与が低い』の構造を読む
転職理由1位は『給与が低い』25.5%(マイナビ2025)。なぜ営業職は頑張っても年収が上がらないのか。業界・商材・会社という3つの天井と、今から変えられることを解説する。
編集部
長くやったから言える、本当のことを話す。
転職を考える営業が、なぜ転職しようとするのか。その理由の1位が「給与が低い」だ(25.5%、マイナビ2025年版)。俺がこのデータを見たとき、正直、驚かなかった。むしろ「そりゃそうだよな」と思った。
20年近く営業の世界にいて、俺が見てきたのは、頑張っても頑張っても年収が上がらない人たちだ。でも、その人たちが「努力が足りない」のかというと、絶対に違う。問題は努力ではなく、構造にある。
今日は、その構造を正直に話す。知った上で判断してほしい。
転職理由1位「給与が低い」の実態
マイナビの調査(2025年版)によれば、転職理由の1位は「給与が低い」で25.5%。4人に1人が、給与への不満を転職の主な動機としている。
これは営業職に限った話ではないが、営業職は特にこの問題に悩みやすい。理由は単純で、営業は成果が数字で見えやすい職種だからだ。「これだけ結果を出しているのに、なぜ年収はこれだけか」という比較が、他の職種より容易にできてしまう。
転職後の年収変化を見ると、中央値で+22万円という数字が出ている(マイナビ2025年版)。これは「転職すれば上がる」という証拠のように見えるが、注意が必要だ。上がった人の平均であり、下がった人も一定数いる。無計画な転職は必ずしも答えではない。
大事なのは、なぜ今の職場で年収が上がらないのかを理解することだ。
年収が上がらない3つの構造的理由
俺が20年見てきた中で、年収が上がらない原因は大きく3つに分類できる。
理由1:業界の天井
同じ頑張りでも、業界によって年収の「天井」が全く違う。
例えば、消費財の営業と、医薬品の営業(MR)を比較してほしい。後者の平均年収は803万円(JACリクルートメント)だが、前者は400〜500万円台が多い。商品の違いもあるが、業界全体のマージン構造が根本的に異なる。
マージンが薄い業界では、どれだけ優秀でも、会社が出せる給与の絶対額に限界がある。個人の努力で業界の構造は変えられない。「努力が報われない」と感じるとき、それは努力の問題ではなく、業界を選んでしまった問題かもしれない。
理由2:商材の天井
同じ業界でも、何を売るかで年収の上限は変わる。
単価10万円の商材と、単価1,000万円の商材、どちらが高いインセンティブを出せるか——答えは明白だ。月に5件成約するとして、前者は50万円の売上、後者は5,000万円の売上になる。会社が還元できる額が桁違いに違う。
SaaS営業が注目される理由の一つはここにある。継続課金型のビジネスモデルでは、顧客が増えるほど会社の収益が積み上がる。だから、SaaS企業は営業に還元できる原資が大きくなりやすい。
扱う商材を変える、つまり転職することが、年収の天井を引き上げる直接的な手段になる。
理由3:会社の評価制度の天井
業界と商材の条件が良くても、会社の評価制度が年収を決める。
日本の多くの企業には、依然として年功序列の要素が強く残っている。35歳の優秀な営業が、50歳の平凡なベテランより低い給与をもらっているケースは珍しくない。
また、インセンティブ制度がない、または上限がある会社も多い。どれだけ売っても固定給が変わらないなら、頑張る理由が薄れる。昇格による年収アップが唯一の道であれば、ポジション数が少ない中小企業では詰まってしまう。
年収の上がる営業・上がらない営業の違い
じゃあ、同じ会社・同じ業界にいても、年収が上がる人と上がらない人の違いは何か。
上がる営業の特徴:
一つ目は、数字以外の価値を作っている人だ。成約数だけでなく、チームの仕組みを改善した、新しい顧客層を開拓したという「再現性のある成果」を持っている。これがマネジメントや企画への登用につながる。
二つ目は、転職市場での価値を意識している人だ。自分のスキルが他社でどう評価されるかを常に考えている。社内評価と市場評価が乖離したとき、迷わず転職を検討できる。
三つ目は、扱う商材・業界の「天井」を知っている人だ。今いる場所の限界を理解した上で、意図的にキャリアを設計している。
上がらない営業の特徴:
一つ目は、現職に最適化しすぎている人だ。その会社固有の営業手法、その会社固有の顧客関係だけに価値がある場合、転職すると評価がリセットされる。
二つ目は、「もう少し頑張れば上がる」と信じている人だ。構造的な問題を個人の努力で解決しようとして、消耗してしまう。
三つ目は、年収以外の要素(関係性・慣れ)で現職に留まっている人だ。これ自体は悪くないが、年収への不満が解消されないまま時間が過ぎていく。
営業企画・営業推進というキャリアパス
現場営業から年収を上げる現実的な道として、営業企画・営業推進へのキャリアシフトがある。
営業企画の平均年収は847万円、営業推進は872万円(JACリクルートメント)。現場の営業職平均と比較して、100〜200万円以上高い水準だ。
なぜ高いのか。答えは「レバレッジ」だ。現場営業は自分が売る。営業企画は営業チーム全体の成果を上げる仕組みを作る。10人のチームの成果を10%上げれば、自分が一人で頑張るより大きなインパクトを出せる。会社はそのレバレッジに対して報酬を払う。
現場で数字を作り、チームへの影響力を持ち始めたなら、社内異動で営業企画を狙うのは合理的な戦略だ。
インサイドセールス経験が年収の選択肢を広げる
もう一つの選択肢として、インサイドセールス(IS)経験の積み上げがある。
ISはデータドリブンな営業手法を学べる職種で、SaaS業界での需要が急増している。IS経験者は、SaaS企業での転職時に優位に立てる。そして前述の通り、SaaS企業は年収水準が高い傾向がある。
さらに、IS経験はCSM(カスタマーサクセスマネージャー)やAE(アカウントエグゼクティブ)へのキャリアパスを開く。外資系でCSのポジションに就けば、平均約1,000万円という数字も現実的な目標になってくる。
今から変えられること
最後に、現実的なアクションを整理する。
今すぐできること:
- 自分の業界・商材・会社の「天井」を調べる(転職エージェントへの登録、年収比較サービスの活用)
- 市場価値を測る(実際に求人に応募してオファー年収を確認する)
- 社内で影響力を広げる(個人の数字だけでなく、チームへの貢献を意識する)
6ヶ月〜1年で取り組むこと:
- IS経験を積む(社内異動または転職)
- SaaS・人材・金融など、マージンの厚い業界への転職を検討する
- 営業企画・営業推進ポジションへの異動を上司に相談する
年収が上がらない理由は、あなたの努力不足ではない可能性が高い。構造を知った上で、戦略的に動くこと——それが20年間、俺が見てきた「年収を上げた人」に共通していたことだ。
参考文献
- マイナビ「転職動向調査2025年版」(2025年、転職理由1位「給与が低い」25.5%、転職後年収変化+22万円中央値)
- JACリクルートメント「職種別年収データ」(営業企画847万円、営業推進872万円)
- Salesforce「State of Sales Report 2024」(営業担当者の非営業業務比率)
- リクルートワークス研究所「プレイングマネージャー実態調査」(2019年)
よくある質問
- Q営業職の年収が上がらないのはなぜですか?
- 主な原因は業界・商材・会社の3つの構造的天井です。扱う商材の単価が低い、業界全体のマージンが薄い、評価制度が年功序列で実力が反映されにくい——これらが複合的に絡んでいます。個人の努力だけでは超えられない壁であることが多いです。
- Q年収を上げるために今すぐできることは何ですか?
- 短期では社内の営業企画・営業推進ポジションへの異動を狙うこと。中期では扱う商材を単価の高いものに変える転職(SaaS・人材・金融)が有効です。インサイドセールス経験を積んでおくと選択肢が大きく広がります。
- Q転職すれば年収は上がりますか?
- 転職後の年収変化の中央値は+22万円(マイナビ2025年版)です。ただし無計画な転職は逆効果になることもあります。業界・商材・会社の天井を理解したうえで、より高い天井のある環境を選ぶことが重要です。
- Q営業企画・営業推進の年収はどのくらいですか?
- JACリクルートメントのデータによると、営業企画847万円・営業推進872万円が平均値です。現場の営業職と比較して100〜200万円以上高い水準であることが多く、年収アップを狙う営業職にとって有力な選択肢です。
ジン
41歳フィールドセールス VP
20年以上の現場経験。エンタープライズ大型商談の修羅場をくぐってきたから言える、長期視点のキャリア論。