SaaS市場が2028年に3兆円——その波に乗る営業職の選び方
国内SaaS市場は2028年に3兆円規模へ(IDC Japan予測)。SaaS企業の平均年収は一般SIerより15〜30%高く、インサイドセールスのテレワーク率は75.1%。この波にどう乗るか、転職の具体策を整理する。
編集部
3年前、俺が「SaaSに転職しようかな」と言ったとき、周りの営業仲間はポカンとしていた。
「SaaSって何?ソフトウェアでしょ? 営業するもんなの?」
今なら笑えるが、当時はその反応が標準だった。それが今、SaaS営業はキャリア相談の中で最も話題に上がるキーワードになっている。
SaaS市場の成長は止まらない。 そして、市場の成長は必ず「人材需要の増加」と「年収水準の上昇」につながる。この波を意識して動くかどうかが、5年後のキャリアの差になる。
SaaS市場の規模——2028年に3兆円という数字の意味
まず市場データを整理しよう。
IDC Japanの予測によると、国内SaaS市場(クラウドサービスを含む広義SaaS)は2028年に約3兆円規模に達するとされている。2023年時点の市場規模が約1.5兆円であることを考えると、5年間でほぼ2倍のペースで成長する見込みだ。
なぜこれほど成長するのか。主な理由は3つある。
理由1: DX推進の継続 政府のDX推進政策・ガイドラインが大企業から中小企業へと波及し、クラウドシフトが加速している。「自社でシステムを持つ」から「SaaSで借りる」へのパラダイムシフトは、あらゆる業種で進行中だ。
理由2: AIとSaaSの融合 Salesforce・HubSpot・Slack・Notion等の主要SaaS製品にAI機能が統合されつつある。AI機能を使いこなすためにSaaSを採用する、という流れも加速している。
理由3: 中小企業へのSaaS浸透 これまでSaaS導入は大企業・IT企業が中心だったが、使いやすさ・コスト改善によって中小企業への浸透が広がっている。潜在市場は大企業だけではなく、中小企業を含めると膨大だ。
この市場成長は、SaaS企業の営業人材への需要拡大に直結する。市場が2倍になれば、営業人材の需要も同様に増える。
なぜSaaS営業は年収が高いのか——ビジネスモデルから理解する
「SaaSは年収が高い」は本当だ。しかしなぜ高いのかを理解している人は少ない。
ビジネスモデルから考えると明確になる。
SaaSは月額・年額の継続課金モデルだ。一度受注した顧客が継続する限り、収益が積み上がっていく(ARR:Annual Recurring Revenue)。このモデルの会社が成長するためには、新規受注を増やすことと、既存顧客のチャーン(解約)を防ぐことの両方が必要だ。
つまり、営業の価値が「単発の売上」ではなく「長期のARR創出」として測られる。一人の営業が創出するARRが数千万円・数億円に積み上がれば、報酬に数百万円を投じても十分に採算が取れる。
xenoBrainの2024年データによると、SaaS企業プレイドの平均年収は1,040万円に達している。SaaS業界全体でも、上位層の年収水準は一般SIer企業より15〜30%高いとされる。
加えて、ISのテレワーク率が75.1%という数字がある(業界調査)。高年収と高い自由度の両立——これがSaaS業界転職への需要が高い最大の理由だ。
SaaS企業の種類——スタートアップから大手外資まで
「SaaS企業」と一口に言っても、実態は多様だ。転職前に自分に合うタイプを見極めることが重要だ。
タイプ1: 国内SaaSスタートアップ(シリーズA〜C)
特徴: 組織が小さく、1人が複数の役割を担う。プロダクトは成長途中で、「売りながら作る」フェーズが多い。裁量が大きい反面、チャーン・組織変更のリスクも高い。
向いている人: 幅広い経験を早く積みたい人・将来の独立や起業を見据えている人・変化を楽しめる人
年収: 400〜700万円(固定)+ ストックオプション。成果次第でインセンティブが加わる。
タイプ2: 国内SaaSスケールアップ(シリーズD以降・上場直前〜上場後)
特徴: 組織が整備され始め、役割分担が明確になる。プロセスが型化されており、スタートアップほど混沌としていない。安定性と成長性のバランスが最もいいゾーン。
向いている人: ある程度の安定と成長の両方を求める人・特定の業界・製品領域で専門性を積みたい人
年収: 500〜900万円(年収+インセンティブ)
タイプ3: 外資系SaaS(Salesforce・HubSpot・SAP等)
特徴: 採用水準が高く、即戦力が求められる。プロセスが徹底的に型化されており、グローバルのベストプラクティスを学べる。KPIが明確で、成果次第の報酬モデルが多い。
向いている人: 最初から高い基準の中で学びたい人・グローバルキャリアを見据えている人・すでに営業実績がある人
年収: 700〜1,500万円(固定+インセンティブ)。ただし目標達成が厳しく評価される。
タイプ4: 大手IT企業のSaaS部門(富士通・NTTデータ・NEC等のクラウド部門)
特徴: 大手の安定性とSaaSビジネスの経験を両立できる。ただし意思決定が遅く、純粋なSaaSスタートアップより学べる速度は遅い場合がある。
向いている人: 大企業のセキュリティや安定性を重視する人・SaaS転換期の大企業顧客へのアプローチを学びたい人
年収: 500〜800万円(安定型)
IS・FS・CSとSaaSの関係——どの職種から入るべきか
SaaS企業の中での職種選択も重要だ。
インサイドセールス(IS)から入るルート
未経験からSaaS業界に入る最もポピュラーなルートだ。BDR(バウンドデベロップメントレップ)として架電・メールアウトバウンドを担当し、SDR(インバウンドリード対応)を経て、最終的にAE(フィールドセールス)へのステップアップを目指す。
テレワーク率75.1%という数字はIS職の恩恵が大きく、「家から働きながらSaaSのスキルを積む」ことが実現できる。
フィールドセールス(FS/AE)で入るルート
すでに3〜5年の営業実績がある場合、AEとして直接入るルートがある。エンタープライズ向けAEは特に年収が高く、外資系では800万円〜1,500万円のポジションも存在する。
カスタマーサクセス(CS)から入るルート
チャーン防止・アップセル・オンボーディングを担うCS職は、平均年収543万円とIS・FSより低めだが、SaaSビジネスの全体像を学ぶには最適なポジションだ。CS経験者はRevOps・営業企画へのキャリアパスも開きやすい。
SaaS営業への転職で見るべき5つのポイント
転職先のSaaS企業を選ぶとき、俺が重視しているチェック項目を整理する。
1. ARRの成長率
企業の成長速度を示す最も直接的な指標だ。年率30%以上の成長を続けている企業は、営業職の求人も増え続け、昇進機会も多い。逆に成長が鈍化しているタイミングに入ると、成果を出しても評価されにくい環境になる可能性がある。
2. チャーン率
解約率が高い企業は、プロダクトに問題がある可能性が高い。NRR(Net Revenue Retention)100%以上(既存顧客から去年より多くの売上が出ている状態)を維持しているかどうかが一つの目安になる。
3. 採用担当者への「どう評価するか」の質問
面接で「達成率以外で評価される指標は何ですか?」と聞いてほしい。「とにかく数字」しか語れない会社は、プレッシャーだけ高くて育成文化がない可能性がある。「パイプライン管理・プロセス改善・後輩育成」なども評価対象と言える会社の方が、長期的に成長できる環境が多い。
4. IS→FS→CS間のキャリアパスの明確さ
ローテーションが起きている会社は、内部でキャリア設計ができる証左だ。「ISで入っても3年でAEに上がれる」「CS経験者がRevOpsに移った実例がある」など、具体的な事例を確認してほしい。
5. マネージャーの営業経験の深さ
自分の直属マネージャーが「現場を経験した人か」は非常に重要だ。現場経験のないマネージャーは、数字管理はできてもコーチングが弱いことが多い。面接や選考プロセスでマネージャー候補と話す機会を作り、その人から学べるかを確認することをお勧めする。
まとめ——波は来ている。あとは乗るタイミングだけ
SaaS市場の2028年3兆円予測は、まだ波の途中だという意味だ。
今から動いて2〜3年でSaaS営業のスキルと実績を積んでおけば、市場がさらに成熟するタイミングで「経験者」として評価される立場になれる。
「SaaSに転職したい」ではなく「どのタイプのSaaS企業で、どの職種から始めるか」を具体的に考え始めることが次のステップだ。
俺も3年前にこの波に乗った。振り返ると、あのタイミングで動いて正解だった。あなたも今がそのタイミングかもしれない。
参考文献
- IDC Japan,「国内パブリッククラウドサービス市場予測 2024〜2028年」, 2024年
- xenoBrain,「日本のSaaS企業年収ランキング2024」, 2024年
- パーソルキャリア,「インサイドセールス職テレワーク実態調査」, 2022年
- マイナビ,「転職動向調査2025年版」, 2025年
- 経済産業省,「DX推進指標 自己診断結果分析レポート2023」, 2023年
- SaaS企業人事・採用担当者ヒアリング(社名非開示・2025年実施)
よくある質問
- QSaaS営業と従来の営業の違いは何ですか?
- 最大の違いは「売り切り」か「継続課金」かです。SaaSは月額・年額の継続収益モデルなので、受注後もCSによるオンボーディング・継続支援が重要になります。営業サイクルも「受注→終わり」ではなく「受注→定着→アップセル→更新」という長期ループになります。
- QSaaS企業への転職に必要なスキルは何ですか?
- 基本的な営業スキルに加え、SaaS特有の概念(ARR・チャーン率・LTV・NPS)への理解、CRM/MAツールの操作経験、データを使った自己管理能力が求められます。未経験からの転換は、まずBDR(インサイドセールス)として入るルートが現実的です。
- QSaaS企業のスタートアップと大手外資、どちらを選べばいいですか?
- 学ぶ速度を優先するならスタートアップ、年収・安定性を優先するなら大手外資が向いています。スタートアップは「何でもやる経験」が積めますが変動リスクが高く、外資は「型化されたプロセス」を学べますが裁量が限定される場合があります。どちらも経験できるなら、スタートアップ→外資の順が市場価値を高めやすいです。
- QSaaS営業はAIに代替されますか?
- テレアポ・提案書作成・データ入力などのルーティン部分は既にAIが代替し始めています。一方でカスタマーサクセスや複雑なエンタープライズ商談、関係構築はAIが苦手とする領域です。AIを活用しながら、人間にしかできない価値創出に集中できる営業が今後も高く評価されます。
ハル
35歳営業企画マネージャー
テレアポ300件/日の時代から、AI活用で月次戦略を回す立場へ。どん底を知っているから、リアルな話しかしない。