東京vs福岡vs名古屋——営業職の地域年収格差は本当に大きいのか
東京の営業年収は450〜600万円、福岡は350〜500万円。数字だけ見ると差があるが、物価・家賃で補正すると実質差は縮まる。地方でも年収を上げる方法とリモートワーク時代の地域戦略を解説する。
編集部
迷ってていい。でも、これだけは知っておいてほしい。
「東京に行かないと年収は上がらない」——そう思い込んでいる人が多い。私もかつてそう思っていた。でも、その前提を一度疑ってみてほしい。
地域別の年収データを見ると、確かに東京と地方には差がある。でも、その差が「実質的にどれだけ生活を変えるか」は別の話だ。そして、リモートワークの普及が、この常識をじわじわと変えつつある。
地域別営業年収データの実態
まず数字から整理する。
営業職の地域別年収の目安(正社員・フルタイム):
| 地域 | 年収レンジ(一般的な営業職) |
|---|---|
| 東京 | 450〜600万円 |
| 大阪 | 400〜550万円 |
| 名古屋 | 400〜550万円 |
| 福岡 | 350〜500万円 |
| 仙台・広島等 | 330〜480万円 |
この数字は職種・業界によって大きく変わる。IT・SaaS営業では地域差が縮まる傾向があり、製造業・不動産・建設では地域の経済力をより強く反映する。
重要なのは、「東京ならとにかく高い」という単純な話ではない点だ。同じ東京でも、業界・商材・企業規模によって400万円台から1,000万円超まで幅がある。地方であっても、高成長SaaS企業のリモート求人では600万円以上も珍しくない。
物価・家賃で補正した実質年収の計算
名目年収の差は大きく見えるが、物価と家賃で補正すると話は変わる。
総務省の家計調査(2023年)によると、二人以上世帯の月間消費支出の地域差は以下の通りだ。
- 東京都区部:約36万円/月
- 愛知(名古屋周辺):約32万円/月
- 福岡:約29〜30万円/月
消費支出ベースで見ると、福岡の生活コストは東京の約83%だ。
住居費で比較するとより明確になる。一般的な1LDKの家賃相場(2025年時点):
- 東京23区内:15〜22万円
- 大阪市内:8〜13万円
- 名古屋市内:7〜11万円
- 福岡市内:7〜10万円
東京で年収500万円(手取り約380万円、月約32万円)と、福岡で年収400万円(手取り約310万円、月約26万円)を比べると、家賃差が月8万円(年96万円)あれば、実質的な可処分所得は福岡の方が高くなる計算もあり得る。
もちろん個人の生活スタイルによって変わる。外食費・交通費・娯楽費も地域差がある。でも「東京じゃないと生活水準が落ちる」というのは、一概には言えない。
地方でも年収が上がりやすい職種・業界
地域格差を気にしないで済む、または地方でも東京水準を狙える仕事がある。
インサイドセールス(IS):
ISはテレワーク率75.1%(経済産業省・民間調査データ)で、営業系職種の中で最もリモートワークが定着している。架電・メール・オンラインデモ中心の業務性質上、物理的な場所を問わない仕事だからだ。
完全リモート可のIS求人で採用されれば、東京の会社に勤めながら福岡に住むことができる。給与は東京本社の規定に基づく場合が多く、地域手当の有無は会社による。
ただし、IS求人の63%は東京集中(経済産業省・人材関連統計)という現実もある。完全リモート可という条件で絞ると母数は減る。それでも選択肢は確実に増えている。
SaaS・IT系の法人営業:
SaaS企業はリモートワーク文化が強く、IS以外でもAE(アカウントエグゼクティブ)でリモート可のポジションが存在する。年収水準はフィールドセールスより高めに設定されることが多い。
フリーランス・副業型営業:
成果報酬型の代理店営業やフリーランスセールスコンサルタントは、地域を問わない。ただし収入の安定性が課題になる。
リモートワーク普及が地域年収格差に与えた変化
コロナ以降、リモートワークの普及が「東京に住む必要がある仕事の範囲」を変えた。
ISに限らず、SaaS企業のカスタマーサクセス(CS)、マーケティング、一部のフィールドセールスでも、フルリモートまたはハイブリッドの働き方が定着した。このトレンドは、地方在住者の転職選択肢を着実に広げている。
一方で、対面での関係構築が競争優位になるポジション(大企業向けエンタープライズ営業、新規事業開拓)は、依然として東京拠点が多い。
地域戦略を考えるとき、「自分がどのキャリアパスを選ぶか」が先に来る。対面重視のエンタープライズ営業で勝負するなら、少なくとも数年は東京拠点が合理的だ。ISやSaaS営業でリモートを活かすなら、地方在住のまま年収を上げることが現実的になる。
地方でIS転職を実現するための具体的ステップ
地方在住のまま年収を上げたい人への、現実的なアドバイスだ。
ステップ1:現職でのIS・デジタル営業経験を積む
IS経験がゼロだと、フルリモートIS求人への転職は難しい。現職でオンライン商談・デジタルツールを積極的に使い、実績を作ることが先決だ。
ステップ2:転職エージェントに「完全リモート可・IS」で絞って相談する
「東京に行けない」という前提を最初に伝え、完全リモート可能なIS求人に絞って紹介してもらう。大手エージェントよりもIT・SaaS特化型のエージェントの方が、この条件に合う求人を持っていることが多い。
ステップ3:SalesforceやHubSpotなどCRMの資格・スキルを取得する
リモートIS求人で求められる具体的なスキルとして、CRMの活用能力が挙げられることが多い。Salesforce認定資格(ADM201など)は、地方在住でも勉強できる。
ステップ4:給与交渉で「勤務地手当なし・フルリモート」の条件を確認する
一部の会社では、フルリモートの場合に地域手当を設定していることがある(東京在住者より低い給与になるケース)。条件の詳細は必ず確認し、年収の絶対値で判断する。
東京集中63%の現実とどう向き合うか
IS求人の63%が東京集中という数字は現実だ。これを無視するわけにはいかない。
でも、この数字は「IS求人全体の地域分布」であり、「リモート可の求人の地域分布」ではない。リモート可の条件で絞ると、東京集中度は下がる。
また、63%は東京というのは、逆に言えば37%は東京以外だということだ。大阪・名古屋・福岡にもIS求人は存在するし、地方拠点展開を進めているSaaS企業も増えている。
「東京に行かないと転職できない」は、業界と職種を選べば、もはや事実ではない。ただし、選択肢は確かに東京より少ない。その現実の中で、自分に合った選択をしてほしい。
地域と年収の選択は、キャリアだけでなくライフスタイル全体の問題だ。数字だけで判断せず、「どこで、どう生きたいか」を起点に考える。それが、後悔しない選択につながると私は思っている。
参考文献
- 総務省「家計調査年報」(2023年、地域別消費支出データ)
- 総務省「通信利用動向調査」(2024年、テレワーク実施率)
- パーソルキャリア「IS市場動向レポート」(IS求人の東京集中63%)
- マイナビ「転職動向調査2025年版」(地域別年収・転職後年収変化データ)
- SUUMO「家賃相場データ」(2025年、地域別1LDK相場)
よくある質問
- Q地方在住の営業職が年収を上げるには東京に出るしかないですか?
- 必ずしもそうではありません。インサイドセールス(IS)はテレワーク率75.1%で、地方在住のまま東京のSaaS企業に転職できるケースが増えています。完全リモートのIS求人を探すことが、地方在住者の現実的な年収アップ戦略になっています。
- Q東京と福岡の営業年収の実質差はどのくらいですか?
- 名目では東京450〜600万円・福岡350〜500万円と差がありますが、総務省の家計調査によると福岡の消費支出は東京比で約80〜85%水準です。家賃だけ見ても1LDKの相場は東京15〜20万円に対し福岡7〜10万円程度。手元に残るお金で比較すると、実質的な格差は名目差の半分程度になるケースも多いです。
- Q名古屋の営業職の年収はどのくらいですか?
- 名古屋(愛知県)の営業職年収は東京と福岡の中間程度で、400〜550万円が一般的な水準です。製造業・自動車関連の大手企業が多いため、法人向け営業(製造業・部品・設備)では安定した高水準を期待できます。
- Q地方でSaaS営業に転職できますか?
- 完全リモート求人が対象になります。国内のSaaS企業でも、IS(インサイドセールス)ポジションで完全リモート採用をしている企業が増えています。転職エージェントに「完全リモート可・IS職種」で絞って相談することをお勧めします。
マイ
29歳インサイドセールス
文系・非IT出身でCSからISに転職。迷いながら動いて気づいたことを、等身大で伝える。